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2015-10-09

ひと図鑑 江島民子さん(女性起業家)

「ひと図鑑」Vol1でご紹介するのは、株式会社グリーゼの代表取締役社長で、女性起業家の江島民子さんです。常に、ご自身のライフステージに合わせて、適切な働き方、会社の形態を模索されてきた江島さん。そのお話には、働く女性の生き方のヒントがいっぱいです。

江島民子さんプロフィール
フリーのシステムエンジニアとして、業務管理・会計システムの開発などに携わった後、株式会社グリーゼの前身である有限会社ウィンアンドウィンネットを起業。現在は、日本各地の在宅主婦を中心とした約200人のライターを束ね、Webコンテンツやメールマガジンのライティング、SEO対策等、Webに関するマーケティング事業を請け負っている。日本オンラインショッピング大賞審査員、SOHOホームページ大賞審査員、全国イーコマース協議会ベストECショップ大賞審査員、非営利団体日本ネットライター協会(JNWA)運営委員長などを歴任。現在は、Webに関連するライティングやマーケティングのセミナーを開催、日本全国を駆け回る忙しい日々を送る。著書には「楽天市場ではやく儲かる徹底セミナー」などがある。現在、大学生、高校生の娘と三人暮らし。(2014年4月時点)
Q. 江島さんが社長を勤められている「グリーゼ」ってどんな会社なのでしょう?

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一言で表すなら、ライティングの会社です。現在日本全国に約200人の在宅ライターがいます。きっかけは10年ほど前、ECサイトのお手伝いをしていたある会社からメールマガジンを書いてほしいというご依頼をいただいたことです。当時、現在、グリーゼの取締役を務めるふくだたみこがフリーでWeb制作の手伝いに来ていて「メルマガ書いてみる?」って声をかけたのが始まりです。ふくだはセンスがよかったので、みるみるうちにメルマガのライティングを自分のものにして、ご依頼いただいたショップさんにもとても喜んでいただきました。あるメルマガの賞もとりました。それが評判を呼んで、いろいろなECショップや会社から「メールマガジンを書いてほしい」というご依頼が増えたんです。だんだん件数が増えて、二人ではこなせなくなってきたし、これだけニーズがあるのならと、メルマガライターの通信講座を始めたんですね。

Q. メールマガジンの通信講座ですか?

通信講座のターゲットは、主婦にしました。家で好きな時間に受けられるというコンセプト。受講期間は6ヵ月、費用も10万円以上という講座でしたけれど、予想以上に受講者が集まりました。となると、卒業しても「仕事はありません。勝手に仕事を探してね」ではあまりにも無責任だと考えて、メルマガ制作の請負も始めましょうと……。講座ありきですね。その講座の卒業生が、今のグリーゼのベースとなっているライター達です。現在も30人くらいのメンバーが活躍しています。そのほとんどは「書くことは好きだけれど、仕事にできるとは思っていませんでした」っていう人。私自身、在宅で仕事をしてきて、日々の生活や子育てが、ライティングの仕事スキルにもつながることが多いと感じていましたしね。やる気も力もあるけれど、家庭の事情で外に出られないという女性の役に立てればなという気持ちは、ずっと心のどこかで持っていたように思います。

Q. 在宅ライターの方々とお仕事をされてきてよかったこと、教えてください。

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ライティング事業の始まりが主婦対象の通信講座だったこともあり、グリーゼの仕事しか経験のない人も多いんです。みんなとても優秀で意欲があります。働きたくて、でも外には働きには出られないという状況の中で、安い賃金でも、楽しんで仕事してもらえたので、気持ち良く会社を続けて来られました。同じような境遇、立場だったからこそ、長く働いてもらえているのかなと思います。子どもが怪我をした、熱が出た、親の介護……、さまざまなことが起きますが、みんながお互い様だと思っているので、黙って手を差し伸べてくれるんですよ。「具合が悪い子どもと一緒にいてあげられました」「親の最期を看取れました」と言ってもらえると、こういう形で仕事をしていてよかったと心から思えます。

Q. どんな30代を過ごされましたか?

インターネットに出合って、勉強を始めたのが30代前半です。長女を出産して1年専業主婦をしていましたが、どうにも仕事したくてたまらなくなりました。それが『Windows95』が日本に入って来た1995年。その年のお世話になっていた方への年賀状に「今年はインターネットの勉強をしたい」って書いたら、「費用を出してあげるから学校に行きなさい」って言ってくださったんです。ありがたかったですね。朝10時にデパートが開くのを待って授乳室で長女に母乳を飲ませ、夫に預けて学校、また戻って母乳、勉強……。そしてホームページ制作の仕事を始めたんです。でも、当時のホームページは作ること自体がステータスのようなところがあって、作ることに意味が見出せずもんもんとしていました。そんななか、当時ネットショップのカリスマ店長と言われる方との出会いがあり、ECサイトの存在、お金を生み出すホームページがあるということを知ったんです。そこから一気に仕事にのめり込みました。

Q. 仕事を続けられていて、特に苦労されたことは?

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夫との関係が一番大変でした。長女を出産後、1年間専業主婦をしていた時期もあったので、夫は当然私が家のことを全部やると思っていたんですね。そんなときに急に仕事を始め、のめり込んでいきましたから。当時はインターネットの設定一つにしてもとても難しくて、何時間もパソコンに張り付くことになるんです。決して器用ではないので、仕事に夢中になると、家のことがちゃんとできなくなる。そしてそんな自分に苦しくなる。繰り返しですね。だんだん夫との関係がうまくいかなくなって、きつかったですね。でも今振り返ってみると、言ってもだめだ、どうせわかってもらえないって私自身があきらめちゃっていたんですね。結局離婚することになりましたけれど、たとえわかってもらえなくても、もっとわかってもらえるように努力するべきだったなぁ、仕事が好きだから、奥さんとして家のことをやれないこともあるけれど、応援してもらえませんかってちゃんと言えればよかったなぁって思っています。

Q. そのつらい経験が今のえじまさんやグリーゼにつながるんですね。

仕事をするっておもしろいですからね。夢中になっちゃいます。家庭ではなかなか評価されないけれど、仕事は評価されますから。評価される方につい一生懸命になっちゃうんです。でも不思議なことに、子どもはそういうことを敏感に察知するんですよ。母親が忙しいときに限って、荒れちゃったり、病気になっちゃったりするんですよね。とてもわかりやすい。そして子どもが荒れると仕事も荒れてきます。だからグリーゼのライター達はその手前でストップさせます。会社としてはどうなの? って思うところはあるけど、それで会社がうまくいっても、彼女達が幸せじゃないなら、私としては何のための会社なんだろうって思っちゃいますから。

Q. 二人のお嬢さんは働くお母さんをどうご覧になっているのかしら?

IMG_0049子ども達が私の仕事に対して文句言ったことはありません。思っていたかもしれませんけど、口にしたことはありませんね。彼女達にとっては母親が働いていることは当たり前です。私が勤めているところも見たことがないので、時間拘束される働き方、自分たちが会社員になるというイメージはもっていないかもしれませんね。自分で時間をコントロールできる仕事の形態なので、一緒に遊びに行ったり、授業参観に行ったりもできましたからね。

Q. 子育てをするうえで、江島さんが大切にされてきたことを教えてください。

仕事をすることで子育てを後悔したくなかったんです。完璧な母親にはなれないだろうけれど、自分がこれだけはやったっていう事実があれば、後から後悔しないだろうと思っていました。私が決めたのは、母乳で育てることと子どものご飯を作るという二つ。娘は二人とも2歳半まで母乳だけで育てましたし、大きくなってからも、どんなに忙しくてもご飯は必ず作りましたよ。出張に出かけるときは、朝ごはんはこれ、昼はこれ、夜はこれって、全部書いて置いておくの。一緒にいられなくてさびしい思いもさせただろうし、いろいろなところで手もかけられなかったけれど、この二つをやってこられたことは自信につながりました。いつか私が仕事をしていることに対して娘達が不満を口にしたときにも、後から文句を言わせないぞって(笑)。そしてもう一つあきらめることを覚えました。

Q. あきらめる? 何を?

仕事は終わらないし、家の中はいつも汚いし、いったいどうしたらいいの? ってなっちゃったんです。でも全部を完璧になんてできないって気付いたんです。できないことをあきらめる替わりに、やると決めたことはしっかりやろうと思いました。今やるべきことを取捨選択して優先順位を付けないと、結局いらいらして子どもにあたってしまう。こっちを選んだんだからこっちはできなくてもしようがないよねって思うようにしました。それから、どんなときに私はいらいらするんだろうって考えたんです。私がいらいらするのは、ご飯を食べられないときと寝不足の翌日。だからどんなに忙しくてもしっかりご飯を食べて、睡眠をとるようにしました。そうすることで子ども達に穏やかな気持ちで接することができるようになりました。

Q. これからのグリーゼは?

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ブログやFacebook、LINEと新しいツールが出るたびに、メールマガジンはなくなるのでは? と言われてきましたけれど、BtoBでもBtoCでも、お客様にプッシュするという役割において、メルマガに替われるものはないと思っています。そこに危機感は感じていません。ただ、メルマガにしても、最近力を入れているWebのSEO対策にしても、ただ作業するだけでお金をいただくのはいやなんですね。たとえば資料請求数や成約数を増やすなど、成果につながる仕事をしていきたいと思っています。結果を出すというこだわりは、SEの経験からかもしれません。また私自身、ずっと自分の時間の7割で仕事をしてきましたが、子育てが一段落して、時間的にも余裕をもって仕事に関われる状況になりました。これからは、より上流工程の仕事にも力を入れていきたいし、仕事の領域も広げていきたいと思っています。ようやく仕事全開モードになれました(笑)。
会社としてのステージも変わってきていますから、「儲からなくてもいいから、隙間時間を使って仕事をしたい」という人達だけでは、会社を回していくのが難しくなっています。「がっつり稼ぎたい。その分プロとして仕事をこなしたい」という人材も必要になってきたということです。

Q. 江島さんの後に続く次の世代の方にメッセージをお願いします。

30代は仕事でもプライベートでも迷いの多い時期だと思います。特に女性が子育てをしながら仕事を続けることは、理解してくれる人ばかりではありません。苦労したり悩んだりの連続です。そんなときに、自分の置かれている環境に文句ばかり言っていたら先に進めなくなります。やりたいことがあるのなら、仕事をしたいのなら、上手に周りの人を巻き込みながら、そのための環境は自分で作っていかなくちゃね。自分自身が前向きでいれば、理解してくれたり、応援してくれたりする人との出会いはきっとありますから。そして、チャンスがあったらとにかく逃さないようにすること。子どもが小さいから、母乳をあげているから、断る理由を考えるより、まずはチャンスに乗ることが大切だと思います。

江島民子さんとお目にかかって

IMG_1136仕事、ご主人との関係、子育てと、枕を涙で濡らすような出来事も決して少なくなかったのだと思います。しかしそんなつらい苦しい出来事も、江島さんにとっては前に進むための糧になったようです。
時にはゆっくり、時にはスピードを上げて、前進し続けてきました。いつしかえじまさんの周りには、彼女を応援したいという人達の輪が広がっていきました。

そして、二人のお嬢さんは成長し、それぞれ高校、大学へ進学した今、働く女性としての江島さんには、次のステージを登る時が訪れています。インタビューのなかでも、まるで少女のように目をキラキラ輝かせながら、これから挑戦したいこと、仕事への思いを語ってくれました。どんな困難な場面に遭遇しても自らの意思で道を切り開いていくえじまさん。まだまだ挑戦は続きます。

※2014年4月に、東京で働く・暮らす女性のライフスタイルコミュニティ「東京ウーマン」に寄稿した記事を転載いたしました。

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